第1章

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「でも、エダちゃんに心配させているのも事実だし土産もいいんじゃないか」とサクラに賛同した。ユージは溜息と舌打ちの交じったものを吐く。高級ケーキ専門店<ボローニェ>は、このFBI・NY支局からユージのマンションまでの帰路途中にある。エダもサクラも、ついでにJOLJUも好物だ。ただし1ホール120ドルもする…… むろんこの場合支払うのはユージだ。ユージは買うとは言わず……結局買う事になると覚悟し……黙って今日の活動報告書を書き上げていた。  一日の活動報告書だからそう時間は掛からない。ユージも拓も早々に書き終えた。めずらしくコール支局長もまだ残っていたので、その場で報告書をデーター送信し、上着を取った。  そして帰る準備を整え終えた時…… ユージのデスクの電話が鳴った。音でコール支局長からの発信だと分かる。無表情で電話に出たユージの表情に一瞬驚きが浮かんだ。 「すぐに拓と行きます」そう答え、ユージは再び上着を羽織りなおした。 「報告書でヘマしたぁ~? 駄目だなーユージも~」 「黙れ。何か事件が起きた。いきなりコールが雷声落としてきた」 「お前が何かやったんだろ?」拓も席から立ち上がる。サクラも立ち上がろうとしたところをユージが制した。 「お前が来てどうする、ここにいろ。勝手についてきたらケーキはなしだ」ユージはサクラに念を押し、拓とコールのいる上階に向かって歩き出した。  ユージたちの姿が消えてすぐ…… サクラはニヤリと微笑み、すぐにユージたちの後を追った。  ユージたちを待っていたのは、完全に予想外の展開であった。 『クロベ捜査官に告ぐ。<マリア>を24時間以内に保護しろ。でなければ、この刑事を殺す』  僅か20秒の映像。そこに映っていたのは<狂犬>と、両手両足に目口を粘着テープで封じられた、椅子に座らされた市警察風紀課刑事サミュエル=デトリスの姿があった。  コールが説明するまでもなく、ユージも拓も深刻な事態を理解した。こういう事が起こるなど予想外だ。 「今から30分前。少年ギャングの下っ端が100ドルの駄賃でこの映像と一枚の写真をNYPD14分署に持ってきた。身内を誘拐された市警察は今も怒り狂っているが、クロベを名指ししているし誘拐はFBIの管轄だと言って本件はこちらで引取ってきた」
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