第1章

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 コールの口調はいつもより荒い。NYPDを納得させるのによほど苦労したのだろう。 「今現在この事件を知っているのは市警察。FBIでは私とお前たち、そして本部だけだ。報道規制も行っている。お前たちは24時間勤務にシフトに変更だ。何でデトリス刑事が人質になったか分かるか? クロベ、ナカムラ」 「私服刑事になって2年の若手刑事です。彼が恨みを買っていたとは思えません。俺と一緒だったところを見られたのだと思います」と拓。 「俺は先日、あの怪物と闘ったとき名乗りましたからね。俺の事は少し調べれば分かる事です」とユージ。二人の意見にコールは頷く。その線で間違いないだろう。 「ワシントン本部のアレックス=ファーレル部長とマック=ドリトン捜査官、本部の科学捜査部も協力してくれることになった。30分後テレビ会議を行う。言うまでもないが、市警察はもちろんNYのあらゆる法執行機関が協力を約束してくれている。だが24時間という時間制限がついた」  そういうと、コールは一枚の画像を二人に手渡した。そこに写っていたのは白人の少女だ。白いゴシック調のドレスを着た色白で髪の長いほっそりとした少女が映っている。背景も古風な欧州風の室内だ。年齢は14~18歳くらいではっきりと断定はできない。 「これが動画と一緒に渡された<マリア>の写真だ」 「ようやく有力な手掛りと喜びたいところですが、画質が荒いですね」 「それは仕方ない。原本はポラロイドカメラで取られた写真でそれは拡大写真だ」 「いまどき何でポラロイドなんだ?」と溜息をつくユージ。「NYPDは今頃これをもって駆け回っているところですか」ユージの問いにコールは無言で頷く。  警察は身内が巻き込まれる事を何より憤る。警察組織は他の組織とは比べ物にならないほど連帯感が強い。FBIに主導権が渡ったとしても彼らが独断で捜索活動を行うことは確認するまでもない。約束違反だが、止められる物ではない。 「あまり市警察にかき乱されたくはないんですが」 「分かっている。しかし身内を誘拐されたのだ、止められん」  刑事がそこらじゅうに捜索を始めれば、<マリア>を所持している人間が身の危険を感じ<マリア>を始末しかねない。その危険性はもちろんNYPD側も分かっているだろうが、彼らは感情的になっている。
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