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家が大きくなってまたしばらく時が過ぎた後、一人の若い女がやってきた。
「赤蛇 (アカシャ) 様、うちの旦那の商売が軌道に乗るようお願いします」
彼女の願いを聞いてふと考える。
そういえばここ最近、作物を気にする人間が減ってきたようにも思える。
供え物の“おにぎり”や“漬物”も少なくなり、代わりに金属片が玄関の前に置かれた箱の中に投げ込まれるようになっていた。
それに彼女のように誰かの為に願いを捧げる人間は初めて見る。
長い間、人間の願いを叶えてきたが“誰かの為に”と望んだ者は皆無だった。
私は他人の為に願いを捧げる彼女に感心し、重く響く大きな音と共に彼女の旦那の商売がうまくいくようにしてあげた。
他人の為の願いという事もあってか、彼女は嬉しそうに何度も何度も私の家に通い、事あるごとに色んな食べ物を持ってきてくれた。
しかし数年経った頃、突然彼女は寂しそうな表情で私の下を訪れた。
そして、暗い表情のまま彼女は謝罪するように頭を下げる。
聞けば彼女は一人、この土地を離れるらしい。
涙を零して私に報告する内容を聞くと旦那の商売は成功したが、彼の酒癖と女癖の悪化が原因だとか嘆いていた……。
旦那の商売がうまくいったのになぜ彼女は泣いているんだろう?
よくわからない。
私は久しぶりに首を傾げた。
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