12月10日

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曇ったガラスに文字が浮かび上がってきた。 いや、彼女が指で書いたのだ。 逆になっている文字を頭の中で整理すると、それは『RAIN』になった。 この英語の意味を私は知っている。 前に読んだ本の題名にあったからだ。 雨……、船が沈没した時、大雨が降っていたからか、それとも……。 彼女が書いた文字の隙間から船内が微かに見えた。 大きく傾く床の上で彼女を抱き上げる人間がいた。 私は目を疑った。 きっちりと七三に整えた黒い髪に細い丸縁眼鏡。 その人物は紛れも無く、私の叔父だったのだ。 私には気付かず、鬼気迫る表情で彼女を抱き抱えた叔父は何処かに消えていった。 パチン、パチンとスイッチを押すように一つ、また一つと船内の電気が消えていき、明るかった船内が暗くなった。 気付いた時には、窓の中も湖と同じ水に満たされ、荒れ果て、藻が浮いていた。 長らく呼吸をしなかった所為だろう、私の意識は、そこで遠退いてしまった。 私も湖底に沈み、記憶になる。 そう思った───────。
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