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曇ったガラスに文字が浮かび上がってきた。
いや、彼女が指で書いたのだ。
逆になっている文字を頭の中で整理すると、それは『RAIN』になった。
この英語の意味を私は知っている。
前に読んだ本の題名にあったからだ。
雨……、船が沈没した時、大雨が降っていたからか、それとも……。
彼女が書いた文字の隙間から船内が微かに見えた。
大きく傾く床の上で彼女を抱き上げる人間がいた。
私は目を疑った。
きっちりと七三に整えた黒い髪に細い丸縁眼鏡。
その人物は紛れも無く、私の叔父だったのだ。
私には気付かず、鬼気迫る表情で彼女を抱き抱えた叔父は何処かに消えていった。
パチン、パチンとスイッチを押すように一つ、また一つと船内の電気が消えていき、明るかった船内が暗くなった。
気付いた時には、窓の中も湖と同じ水に満たされ、荒れ果て、藻が浮いていた。
長らく呼吸をしなかった所為だろう、私の意識は、そこで遠退いてしまった。
私も湖底に沈み、記憶になる。
そう思った───────。
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