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「何をしたかは知らない。でも、ヒントはあったの。
母さんが開封済みのアルコールを勧めるようになってから、明らかに父さんの酒に対する依存度が上がった。すぐ酔っぱらっては大声を上げるくせに、そのせいで近所から苦情が来たりケガをしたりしてたくせに、それでも、酒に病的なほど執着するようになった」
「あ、アル中だったんだもの……だけど、父親がそんななんてあなたたちには言えなかった。殴られたり罵られたりして、それでも家庭を壊したくなくて、良い家族を演じ続けてたのよ。それなのに……
ひどい言いがかりはやめて!」
「そうね。アルコール依存と薬物依存とでは、症例が似てるもの。
今となっては、あんたがキッチンでこっそり入れてた白い粉の正体なんてもう私にはわからない」
初めに覚せい剤をアルコールに混ぜ、依存性を作る。
事件当日よりも前に薬物の混入を止めていれば、逮捕後の検査があったとしても尿中に出はしないだろう。
最終的に彼の精神を蝕んだのが、アルコールなのか薬物なのか、千秋にはわからない。
しかしたとえアルコール依存によるものだったとしても、その依存を作ったのは酒中に溶かし込まれた悪意なのだ。
「千秋君。君が妻を憎む気持ちはわかる。……事件後、君に会いに行かなかったことを恨んでるんだろう?」
晴彦が、憐れむように眉尻を下げる。
「しかし、妻の気持ちもわかってやってほしい。お姉さんが殺されたところを見てしまった君の心を乱したくなかった。
事件を連想させるものや人がいない新天地で穏やかに暮らせるよう、千秋君とは養育費だけで繋がって、陰からずっと見守ろうと決めていたんだ」
千秋は隣の弘人を見る。
不安げな様子で父を見る彼は、きっとこの説明をずっと前から聞かされていたのだろう。
しかしこのストーリーを信じている者は、この場で彼ただ一人だ。
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