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寝室のドアを開けて大森聡子の様子を見る。
ほら、喜べ。
ニヤリと笑うとか、口元だけ緩めるとか、目を見開くとか、顔面で喜びを表現するのは得意だろ?
言葉はきつかったり、酷かったりしても、いつものように豊かな表情で感情を表現してみろ。
「……」
無反応?
あっ、まさか。
「もしかして、しばらく来ていない間にここの家のベッドの大きさを忘れたってこと? ほら、前のはこんな大きなのじゃなくてもっと小さかっただろ? 聡子が引っ越してくるし、いい機会だと思って新調したんだよ?」
身振り手振りを交えて、ベッドの大きさの変化についてレクチャーしてやったら
「そこまでボケてないわっ! ボケッ!!!」
と、厳しい言葉が飛んできた。
「いやいや、聡子がボケてないのに、自分がボケてるってことはないって。ほら、なんかリアクションあるだろ? 夜まで待てないから抱いて? とか」
「変態! あの姿見、なんでここにあるんだっ!!!」
ちっ。
鈍感な大森聡子ならば気が付かないかと思ったのに。
「ほら、着替えたら身だしなみをチェックしたいかなって思って?」
「寝室に服なんて置いてないじゃん! あっちの物置部屋のでっかいウォークインクローゼットの中じゃんっ!」
睨み付けてくる大森聡子。
いいぞ、いいぞ。
グッとくる。
ゾクゾクしてきた。
「いやいや、ホットナイトを過ごしたら服は脱ぐだろ? だから、朝、脱いだ服をもう一度着たときのためだよ。あっ、まさか聡子は鏡の前で二人羽織状態で自分の股の中に座って大股を広げて後ろから弄りまわされるのが希望だった?」
左手を揉み揉み、右手は人差し指を小刻みに動かして、ボディランゲージ付きだ。
「誰がそんなことを希望するかっ!!!」
「自分の希望だよ? なんなら今からでも」
「変態っ!!!」
クルリと向きを変えて寝室から出て行こうとする大森聡子。
「あっ! 置いていくなよ! パン屋の場所、知らないだろ」
「王子班長のおごりですからねっ!!!」
ふっ。
可愛いヤツめ。
振り返って自分のおごりだと叫んだ大森聡子の顔は笑っていた。
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