引っ越し当日の王子健太

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大森聡子の雰囲気が殺伐としているような気はしていた。 引っ越し業者が帰ったあたりで、そのオーラが増した気はしていた。 「コーヒーでも淹れようか? それとも紅茶にする?」 それとも、王子健太様をいれて欲しい? 本当は聞きたかったけれども、聞ける雰囲気ではないことが伝わってきた。 これでも一応、自分は空気を読めるナイスガイだ。 「ふんっ!!! 疲れたから寝ます!!!」 ふてぶてしい態度でドスドスとリビング横の和室へと向かう大森聡子。 「ちょっ、そんなとこで寝たら風邪をひくぞ。せめて布団のあるところ」 「布団なら、ここに持ってきましたからっ!!!」 和室の襖を開けて大森聡子がその中に吸い込まれて、さらに襖をピシっと閉められた。 しまった。 ベッドは処分してもらっても、布団はあったのか。 「聡子、開けていい?」 「ダメ!」 ならば、障子に穴を二つあけて覗くのはありか? 「だったら、障子に穴をあけて覗いていい?」 「変態! 見かけに違わないおかしなことを行動にもうつすなっ!!!」 聞き捨てならない言葉だったぞ? さすがに自分でも怒るぞ? 「あっそ。お腹が空いたな。聡子は寝てるみたいだから、この近所に評判の焼きたてパンを売ってるお店があるけど、一人で行こうかな。今まで聡子のダイエットのためだと思って内緒にしていたとっておきのお店なんだよな。まぁ、聡子は寝てるし」 ぴしゃりと障子が開けられる。 天岩戸作戦、成功だ。 大森聡子は、自分を照らす天照大神だ。 自分の聡明さに惚れ惚れとしそうになった。 「行く」 「笑ってよ」 「……」 「ごめんって。勝手にベッドを処分したことは謝るって。夜まで内緒にしておこうと思ったけど、ほら」 仕方がない。 夜まで内緒にしておこうと思ったけれども、大森聡子の腕を握って寝室へと連行することにした。 大森聡子のベッドなんてなくても、ゆっくり寝られるようにと用意したとっておきのキングサイズベッドだ。 さぁ、遠慮なく股を濡らして喜ぶがよい!
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