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第一章 人肌以上の温もりは要らず
明け方のサイレンで目を覚ますと、窓へと歩み寄った。あちこちで鳴っているサイレンが、皆、一葉に寄ってきては消える。まだ明けていない空が、仄かに明るく曇っていた。それは夜明けではなく、その下では何かが燃えている。
「火災か……」
サイレンの音からすると、火災であった。
そのサイレンの、消える場所が近い。
野次馬ではないが、どうにも気になる。現場に行ってみたいが、方法を練らなくてはいけない。
この部屋の、窓は開かない、おまけにドアも開かない。俺、遊部 弥吉(あそぶ やきち)の寝起きしている部屋は、やや軟禁状態であった。
俺が、この家、丼池家に下宿してから、部屋を抜け出す、失踪する、誘拐されるを繰り返してしまい、全く信用がないのだ。
外へ連絡するにも、俺は携帯電話を持っていない。とある事件で、俺の携帯電話が、盗聴されていそうであったので、壊して捨ててしまったのだ。
タブレット端末を出して、昂にメールを打ってみた。
『近所の火事の場所を教えて欲しい』
返事はない。時計を見ると、二時半であった。明け方かと思ったが、むしろ深夜で、誰も起きてはいない。
屋根裏に出るか。そこまでして、火事現場が知りたい自分にも驚く。我慢しようかと、ベッドに潜ったが、やはり飛び起きてしまった。
サイレンが、気になる。
俺の田舎は、本当にど田舎で、火事もボヤ程度しかなかった。でも、そのボヤの中でも、近所で遭遇したものには、嫌な思い出があった。
小学校の帰り道、細い糸のように空に登っている煙を見た。幼馴染の綾瀬(あやせ)も一緒で、何だろうと煙を差した。
行ってみようか?興味だけで、煙の元を探すと、近所の家の納屋であった。
「大庭さん!大変!納屋から煙!」
綾瀬と二人で騒ぐと、大庭の爺さんが出てきて、納屋の中に飛び込んだ。
「水!消防!」
水はどこにあるのか?俺達は、母屋の中に入ると、そこにいた女性に必死に助けを求めた。
「納屋、燃えています。爺さんが入ってゆきました」
「まあ、大変!」
消防に連絡を取り、近所の人も寄ってきて、ホースやバケツで水をかけた。
納屋は全焼したが、怪我人や死者は出なかった。
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