『永遠だけが知っている』

2/70
前へ
/70ページ
次へ
第一章 人肌以上の温もりは要らず  明け方のサイレンで目を覚ますと、窓へと歩み寄った。あちこちで鳴っているサイレンが、皆、一葉に寄ってきては消える。まだ明けていない空が、仄かに明るく曇っていた。それは夜明けではなく、その下では何かが燃えている。 「火災か……」  サイレンの音からすると、火災であった。  そのサイレンの、消える場所が近い。  野次馬ではないが、どうにも気になる。現場に行ってみたいが、方法を練らなくてはいけない。  この部屋の、窓は開かない、おまけにドアも開かない。俺、遊部 弥吉(あそぶ やきち)の寝起きしている部屋は、やや軟禁状態であった。  俺が、この家、丼池家に下宿してから、部屋を抜け出す、失踪する、誘拐されるを繰り返してしまい、全く信用がないのだ。  外へ連絡するにも、俺は携帯電話を持っていない。とある事件で、俺の携帯電話が、盗聴されていそうであったので、壊して捨ててしまったのだ。  タブレット端末を出して、昂にメールを打ってみた。 『近所の火事の場所を教えて欲しい』  返事はない。時計を見ると、二時半であった。明け方かと思ったが、むしろ深夜で、誰も起きてはいない。  屋根裏に出るか。そこまでして、火事現場が知りたい自分にも驚く。我慢しようかと、ベッドに潜ったが、やはり飛び起きてしまった。  サイレンが、気になる。  俺の田舎は、本当にど田舎で、火事もボヤ程度しかなかった。でも、そのボヤの中でも、近所で遭遇したものには、嫌な思い出があった。  小学校の帰り道、細い糸のように空に登っている煙を見た。幼馴染の綾瀬(あやせ)も一緒で、何だろうと煙を差した。  行ってみようか?興味だけで、煙の元を探すと、近所の家の納屋であった。 「大庭さん!大変!納屋から煙!」  綾瀬と二人で騒ぐと、大庭の爺さんが出てきて、納屋の中に飛び込んだ。 「水!消防!」  水はどこにあるのか?俺達は、母屋の中に入ると、そこにいた女性に必死に助けを求めた。 「納屋、燃えています。爺さんが入ってゆきました」 「まあ、大変!」  消防に連絡を取り、近所の人も寄ってきて、ホースやバケツで水をかけた。  納屋は全焼したが、怪我人や死者は出なかった。
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

62人が本棚に入れています
本棚に追加