『永遠だけが知っている』

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 でも、大庭の爺さんはどこにもいなかった。当時、小学生だった俺達は、必死で爺さんは納屋に入ったと言ったが、納屋で遺体は発見されず証言は無視された。しかも、危険だから火事場に来るなと叱られた。  でも、数日後、見つからなかった大庭の爺さんは、納屋の地下で、遺体で見つかった。  地下といっても、掘って作ったような穴の上に、鉄板があるだけのようなものだった。でも、納屋に地下があったなどと、そこに住んでいた息子夫婦も知らなかった。  大庭家の葬式が済み、ボヤ騒ぎは収束したかのように思えた。  しかし、俺達だけは、そこで話が終わらないのだ。それから綾瀬と、何となく気まずい気分で大庭の家の近くを歩いていた。確か、学校の帰り道であった。  俺達が、もっと騒いでいたのならば、大庭の爺さんは見つけられ、死なずに済んだのだろうか。  そんな思いがよぎり、互いに無言で燃えた納屋のあった場所を見上げた。それから、下を向き言葉を探した。自分達は何もできなかった。そんな思いが強く、立ち去るにも足が前に進まない。そこで、納屋から目を背けて田んぼに目を移すと、用水路の中に茶色い箱のようなものが沈んでいたのだ。 「何だ、あれ?」  見た事もない箱があった、油が染み込んだ茶色の紙に包まれ、紐で結ばれていた。 「水の深さは、あるかな」  腿くらいまで水位はあるが、入れない程ではない。俺達は、用水路の中に入り箱を拾い上げた。 「重い」   箱ではなかった、包みであった。 「開けるか?」  俺の家の納屋で、包みを開けてみると、古い紙切れが大量に包まれていた。字も読めないものばかりであったが、かなり古い事は分かった。 「先生に持ってゆくか……」  茶色の紙を袋に詰めると、俺達は、当時担任だった先生に持って行った。 「これは、昔の資料だね……先生にもよく分からない」  先生は、この紙を民俗学の先生に持ってゆくと言った。  そして、翌日、先生のアパートが火事になり、先生は怪我をして入院した。でもその先生は、学校へは戻って来なかった。  見舞いに行くと言っても、どの先生も入院先を教えてくれなかった。  結局、包まれていたものが何だったのか分からないと思っていたら、ある日、差出人が自分で荷物が届いたのだ。  その中身は、あの紙の束であった。 「綾瀬、紙が戻って来たよ」  その後、校長先生に紙を見せ、民俗学の先生の家を教えて貰い届けた。
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