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唐突に目の前の黒い塊の様な空間が、ヴィンリーには歪んで見えた。
またもや目眩?
ヴィンリーは思わず立ち止まる。
体の動きがぎこちないだけでなく視界もぼんやりとして来た。
何かの薬物か?!
ヴィンリーは由香のことを思い出した。
その時、光の帯が彼の背後から数本伸びた。
そして、その眩く光る先がヴィンリーの足元より少し前方に楕円の輪を描き、その中に埃にまみれた通路の一部が浮かんで見えた。
それはまるで、光の帯が漆黒の闇を切り裂いている風でもあった。
「ヴィンリー…」立ち止まったままのヴィンリーに後ろからグリゴールが声をかける。
ヴィンリーが無言のままそちらの方に目を遣ると、下方からの光に照らされたグリゴールの顔が目に入った。
彼は両の手に、それぞれ小さな懐中電灯を持っていた。
それより溢れ出た光が間接照明となって、ヴィンリーとグリゴールの顔を照らし出している。
瞬間、二人の視線が交錯したものの、それはまるで爬虫類同士の様な冷たいものだった。
「何をやってる…」
グリゴールの背後から、先を促す様なイヴァンの声が聞こえ、二人とも我に返った。
ヴィンリーは黙ったままグリゴールの持つ懐中電灯の一つを手にすると、再び先の見えない闇に向かい歩き始める。
ヴィンリーには懐中電灯の光など、一縷の望みですらなかった。
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