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ヴィンリーは尚も朧気なる意識の中で、イリアの死体を闇に紛れて放り投げた時の事を徐々に思い出して行った。
そしてそれは生々しい感触を伴うものであった。
ヴィンリーの肩にかかる重みは確かにイリアのものではあるが、一歩毎に肩の上で揺れるその動きにイリアの意思を感じる事はない。
それは、何等かの意思による動きではなく、物理的な法則による単なる揺れでしかないのだ。
いや、この表現は適切ではない。
人間の意思による動きの方が、この宇宙の持つであろう大原則と比較すれば、極めて微細で取るに足らぬものの筈だ。
つまり人の動きと物のそれとの差異など無きに等しい即ち人の営みそのものが宇宙規模から見れば自然の一部に過ぎないのである。
しかし、その無きに等しい違いがヴィンリーは耐えられなかった。
そして階段を上がった辺りで、ヴィンリーは精神の限界を感じ、イリアの骸を力任せに投げ遣って、逃げる様にその場を去ったのであった。
今、同じ場所に立ち、この様な記憶がヴィンリーの裡で鮮明に甦っていた。
しかも、その時に感じていた漠然とした恐怖だけではなくて、今ではイリアへの謝罪の意と憐憫の情が複雑に絡み合い、ヴィンリーの精神は崩壊寸前にまで追い込まれていた。
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