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目立った特徴もない住宅地に沿う公道を走る国産高級車。
私はその後部座席に乗車し携帯で情報を確認している。
少し狭い道へ入った所で運転している男がナビ画面を確認しつつ、私に話しかける。
「そろそろ着くぞ」
「分かってます」
短く、事務的な会話、本心はそれで終わらせたかったけど、一つ言っておかなければいけないことがあり、仕方なく、私は次の言葉を発する。
「あなたなら、理解していると思いますが、相手が子供に見えても油断しませんように」
「どうした? 突然」
ルームミラーで私の表情をチラリと伺い、ハンドルを握り直す辺りは思い当たる節があると言っているようなものだけど、まぁ、今日はここまでとしよう。
「例えるなら煙草の臭いは結構、付きまとうものです」
「そうか、気を付けよう」
消臭剤のレバーを気にする仕草は本気か、誤魔化しか、とりあえず、自分の身の周りに気を付けてくれればいい。
そう考えている間に停車し、私は降車する。
「では、気を付けて」
ドアを閉じると静かに発車する。
その車の進行方向と反対のにある駅に歩き出すと、前方から歩いてきた女性に声をかけられた。
「こんばんは、野口さん」
見覚えはある顔、私服だけど多分同年代、同じ学校の生徒の可能性が高い。
関係性と相手の目的が不明なので少し、様子を見てみる。
「こんばんは、こんな時間にお会いするなんて珍しいですね」
「野口さん、今の車は?」
どこから見ていたのだろうか、
「車がどうかしました?」
「最近、色々とありますから……」
探りを入れられている感じがする、
「ご心配には及びません、帰りが遅くなりましたので送っていただいただけです」
「そうですか」
必要以上に相手を心配する態度、そうか思い出した、学校では優しくて周囲の好感度が高い同学年の三森。
「あ、でもこの事は秘密にしておいて下さい、誰かに余計な心配をかけるといけませんから」
「はい」
「それでは、また学校でお会いしましょう」
長話をする必要もないので、早々に切り上げた。
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