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無邪気にそう問われ、後悔が確かなものに変わった。やっぱりあの時、父のもとへ帰すべきだった。絶対に賢人も、父とすれ違ってしまったことに後悔する。もし、このまま時間が過ぎていけば、大変なことになってしまう可能性だってある。……私は、相当な過ちを犯してしまったのかもしれない。
どうしようと思い、私はあたりを見渡した。すると、視界の隅に公園から遠ざかっていく父の姿が見えた。そうだ、今から追いかければ間に合うかもしれない。
「私、ちょっと行ってくる!」
そう言い残し、この場を去ろうとした。だが、私の服が賢人の小さい手に握られ、思わず転びそうになる。
「ちょ、賢――」
「ねぇ、何でおねぇちゃんは、僕の名前を知っているの?」
一瞬にして、胸を貫かれたような衝撃が走った。
「おねぇちゃん、誰なの?」
何を言われているのか、一瞬分からなかった。けれど、その意味を理解した瞬間、自分の体からすべてが抜けていくのが分かった。
――賢人は、私のことを知らないのだ。そして、賢人は私のことを姉として「おねぇちゃん」と呼んだのではない。ただの女の子として私のことをそう呼んだだけだったのだ。それだけ、それだけだったのだ――。
空虚な私の心の中を埋め合わせるかのように、冷たさと絶望だけが自分の体を侵食していく。その感覚に私は恐怖を覚え、片手で自分の体を抱きしめた。温もりなんて微塵も感じない。抱きしめている片手が、まるで何かに怯えているかのように小刻みに震えている。
「賢人、私のこと、覚えてないの?」
「覚えてないっていうか、今日会ったばっかり、じゃないの?」
嘘のない純粋で透明な瞳が、私の心をさらに傷つける。私はその場に膝をついて崩れ落ちた。そして、まるで溺れながらも必死に水を掻く魚のように無我夢中で手を伸ばす。
指先が賢人に触れた瞬間、私は彼を抱き寄せた。
「おねぇちゃん、どうしたの?」
賢人の声色から彼が困惑していることが十分に伝わってきた。それでもなお、指先に力を込めてきつく抱きしめる。もうこれで賢人とは最後。だからこれくらいは許してください、と私は誰かに強く祈った。
私は賢人の小さい肩に顎を乗せて、口を開いた。
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