他人であるアナタ、さようなら。

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今でも幼い男の子を見ていると、もう繋がりが無くなってしまった弟に思いを馳せてしまう時がある。それはおそらく、私が長年の月日がたった現在も彼の存在を求めていることの証だろう。不意に、未だに弟の面影を探している自分自身がなんだかとても情けないと思った。もうお互いに別の道を歩んでいるのだから、彼のことは過ぎし日々の温かい思い出として心の内奥に閉じ込めておくべきなのに。  私は今でも、賢人が自分のことを思い出してくれていますようにと心のどこかで祈っている。出来れば会いたいし、一度だけでもいいから「お姉ちゃん」と呼んでほしい。  だけど、そんなのはタダの願望でしかなくて、気づけばもう数年もたっていた。    無謀な願いだというのは分かっている。けれど、つい信じずにはいられないのだ。血のつながった兄弟を求めるのは当然だろう。私は大人がそれを認めないことが歯がゆくて辛い。  その場に立ち止まってぼうっとそんなことを思っていると、ひときわ大きなセミの鳴き声によって現実の世界へと連れ戻された。ふと少年の方を見ると、まだ作業を続けていた。砂の山は知らぬ間にすごく大きくなっていて、私が幼いころ作っていたそれを遥かに凌駕している。  はた目から見ればもう十分な大きさなのに、少年はまだ手を止めようとしない。私が片手で包んでしまえるほどの小さな両手で、必死に土を抱えている。一体、どこまで大きくするつもりなのだろう。  私は無意識のうちにその少年の方へと駆けていき、声をかけた。 「ねぇ、山を作っているの?よかったら、わたしも……」
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