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もしも、この少年が望むなら一緒に作ってあげよう、そう思った。 ひとりでは時間がかかるし大変だ。それに、お節介かもしれないけれど何だか放っておけない。名前も知らない子供のことがここまで気になるのは初めてだった。
突然声をかけられたからか、彼は肩を僅かに震わせたあと私の方を向いた。丸くて可愛らしい瞳が私を捉える。
「手伝お……う、か……」
「手伝おうか?」と問いかけようとした瞬間、少年の額にある小さな傷が私の目に映った。
不意に昔の思い出が微かによみがえってくる。それは儚くおぼろげで、すぐに忽然と姿を消してしまった。何の思い出なのか、それは全く分からない。だけど、これだけは言える。これに似た傷を、私は見たことがある。
私は必死になって昔の記憶をたどった。この傷は身近な人にあった気がする。見慣れていたはずだ。見慣れていたはず――。
「賢人……」
無意識のうちに自分の唇の隙間からこぼれ出た言葉に、私ははっとなった。
そうだ、これは――賢人の傷だ。彼がまだ一年も生きていない頃、ちょっとしたことが原因でできてしまった小さな傷。
でも、なんで――。頭の中に浮かんできた理由は、たった一つしかなかった。
「もしかして、賢人……?」
気づいたら私は、今は遠い存在である弟の名を口にしていた。唖然とした表情で自分の弟かもしれないこの少年を凝視する。
「……どうしたの?おねぇちゃん」
少年が口にしたその言葉は、かつての彼の口からは一度も聞くことができなかったものだった。初めて耳にした、その言葉の美しい響き。体が震えあがるほどの嬉しさが込み上げてくる。
賢人と会うことができたし、「おねぇちゃん」と呼んでくれた。長年の切実な願いが今、二つとも叶ったのだ。彼も私の事を覚えていてくれた。私の思いは、一方通行ではなかったのだ。そう思うと、体から痺れるほどの喜びが湧き上がってきた。
「おねぇちゃん……」
私はその言葉を思わず反芻した。少年はきょとんとした顔で私を見る。その表情が、どこか私の知っていた頃の弟を彷彿させて、思わず涙が出そうになった。
彼の表情を見れば見るほど、賢人だという実感が泉のように湧き出てくる。愛しさと嬉しさが心の中で肥大して、私は涙を目じりに溜めながら満面の笑みを浮かべた。やっぱり彼は賢人だ。私の弟だ。
「賢――」
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