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「クロード!ここから逃げるんだ!早く・・・!!」
それが燃え盛る炎の中で聞こえた父の最後の声だった。
母は炎に塗れ襲い掛かってきた家具の下敷きになって、俺を護って死んでしまった。
嫌だ――と、泣きじゃくっていた俺に手を差し伸べたのは、一人の男。
――その男も今はもう、居ない。
- part :claude-
室内に響く繊細な旋律。それを奏でるのは一人の幼い少年だった。
白と黒の鍵盤の上を踊るように駆け抜ける、少年の細い指先。それから響く美しく切ない物語は部屋中に溢れだしていたーーが、少年は急に指をとめる。
途端にシーン、と室内は静まりかえった。
「・・・なんだよ」
不機嫌そうに呟く少年。
目線と指を鍵盤から離さずに意識だけを後ろに飛ばしている。
「いやあ、演奏に聞き入ってただけなんだがなあ」
少し間が空いてから笑いが混ざった返事が返ってきた。男の声だ。少年はため息をつき、ようやく後ろを振り返った。
「うるせえ。演奏してる時は邪魔するなっていってんだろ」
少年は綺麗な藤色の髪をかきむしってギロリと相手を睨む。深い紫紺の瞳が細められ、眉間にしわがよっており、おまけに先ほどの綺麗な演奏をするとは思えない口の悪さだ。
「怒るなよー。可愛い顔が台無しだぞ?クロード」
対する相手はあっけらかんと返し、腕を組んで不敵な笑みをこぼしている20代後半くらいの背の高い筋肉質な男。口には煙草をくわえている。
男は煙草を口から離すとぷはー、と息を吐き出した。
「生意気な口聞いちゃって・・・ほーんと可愛くねえ甥だこと」
「うるせえんだよ。それとタバコ吸うな。臭い。今すぐ消せ」
少年――クロードは、煙たそうに顔を歪める。
男はあはは、と軽くあしらうように笑って、何も聞かなかった風にもう一度タバコをくわえた。
「わりーな。これだけはやめれない」
「早死にするぞ、馬鹿」
「ご忠告どうも」
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