前奏 - preludio -

6/16
前へ
/20ページ
次へ
- part:sarah -  月が満ちた夜だった。 首都・カルディネも昼間の賑やかな様子が嘘のように、夜の静寂につつまれている。  国王が鎮座するこの街の中枢にこの国の軍本部はあった。  青い屋根と白い壁の縦長の建物が横に三つ連なり、他の二つより少し高い中央の建物の壁には軍の紋章が飾られ、それらの周りを白く厚い壁が囲んでいる。それはまるで牢獄のようにもみえた。  そんな軍本部の中の一室で、窓から外を眺める一人の女性がいた。  長い黒髪のポニーテールに凛とした綺麗な顔立ち。年齢は20代前半くらいか。  つけっ放しのテレビを背にし、手にコーヒーカップを持って窓際の小さな椅子に座っている彼女は、すっと温かいコーヒーを一口飲んで嘆息すると、夜空に向かって静かに呟いた。 「――あの時と同じね」  寂しげで何処か悲しい声色。  その言葉を遮るかのように「続いてのニュースです」とつけっ放しのテレビから声が響いた。 『カルディネの悪夢』 ――そうテロップが流れ、キャスターの女性が淡々とニュースを読み上げる。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加