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- part:sarah -
月が満ちた夜だった。
首都・カルディネも昼間の賑やかな様子が嘘のように、夜の静寂につつまれている。
国王が鎮座するこの街の中枢にこの国の軍本部はあった。
青い屋根と白い壁の縦長の建物が横に三つ連なり、他の二つより少し高い中央の建物の壁には軍の紋章が飾られ、それらの周りを白く厚い壁が囲んでいる。それはまるで牢獄のようにもみえた。
そんな軍本部の中の一室で、窓から外を眺める一人の女性がいた。
長い黒髪のポニーテールに凛とした綺麗な顔立ち。年齢は20代前半くらいか。
つけっ放しのテレビを背にし、手にコーヒーカップを持って窓際の小さな椅子に座っている彼女は、すっと温かいコーヒーを一口飲んで嘆息すると、夜空に向かって静かに呟いた。
「――あの時と同じね」
寂しげで何処か悲しい声色。
その言葉を遮るかのように「続いてのニュースです」とつけっ放しのテレビから声が響いた。
『カルディネの悪夢』
――そうテロップが流れ、キャスターの女性が淡々とニュースを読み上げる。
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