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『皆様の記憶にも鮮明に残っていることでしょう。三年前の今日、首都・カルディネの路地裏で起こった悲惨な殺人――「路地裏殺人事件」』
女性は振り返りはしなかったが、意識は完全に夜空からテレビへ移っていた。
『この事件の被害者はルカ・ウル・ジェルマ少尉、16歳。発見当時、現場には大量の血痕が残っていた為、被害者だけでなく犯人も多量の血を流していると思われており、軍本部は当初、犯人はそう遠くへは逃げられないと踏んでいましたが、捕まらないまま現在に――』
――ブツン
と、女性は唐突にテレビを切り、再びコーヒーを一口飲んでからカップをテーブルに置いて立ちあがると、彼女は軍服に着替え始めた。
軍服は上下共に濃紺で上着の襟の部分にキラキラと輝く銀色の糸で軍の紋章が刺繍がしてある。二つの胸ポケットの片方には位を表すピンバッジが三つ留めてあった。
三本の銅色のそれが表す軍位は『大尉』。
女性は上着の上からしっかりとベルトを締め、拳銃を腰に差した。
自分の道を表す象徴であるそれらはいつ纏っても本来の重さ以上の重みを感じる。
――三年経つのか。
彼女は心の中で呟き、眉間にしわを寄せて悔しそうに唇を噛んだ。
自分をこの道へと追いやった、あの事件。
愛する人を奪った、あの満月の夜。
貴方を殺した犯人を、絶対に捕まえる。たとえ何年かかろうとも、諦めない。
そう、自分に、――彼に、約束をしたのだ。
コンコン――とドアがノックされる音で、彼女は回想から現実に引き戻された。
「どうぞ」と応えると、「失礼します」の声の後にドアが開き、爽やかな笑顔の青年が顔を覗かせた。
「失礼します!大尉、パトロールの時間ですよ」
「ええ、行きましょう」
女性は凛とした声でそう返した。
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