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「今日は泊まっていったらいかがですか?」
「大丈夫だ。じゃあ、またな」
「ええ、お気をつけて」
カランカラン――無機質な金属の音と共に、男は千鳥足で酒場を出た。
入口の横の小さなランプが足元を照らしているが、ほんの1メートル程しか光は届いていないので、他に電灯のない路地裏はすぐに真っ暗になる。
男は周りの建物の壁を支えにしながらゆっくり歩いていくが、案の定、途中で盛大にすっ転んだ。
はあ、と息を吐きだし、仰向けに寝転んで、やはり酒場に泊めてもらえば良かったか、と朦朧とした頭で考えていた時、ふわりとした灯りが視界に入った。
男は自嘲するような薄笑いを浮かべて呟く。
「幻覚?幽霊か?――俺、本当にやべーかもなぁ・・・」
「貴方、大丈夫・・・?」
凛とした女性の声がして、男はその灯りがランプであることに気が付いた。
それによって浮かび上がったその持ち主の気の強そうな美しい顔に一瞬見惚れたが、急にがばっと跳ね起た――が、ふらついてまた地面に倒れかける。
しかし女性が素早く彼を支えたので、男はなんとか踏みとどまり、代わりに彼女の手からランプが落ちた。ガシャン――!という音が盛大に響き渡り、一瞬にして辺りが暗闇に包まれてしまう。
「あー・・・もう、ランプ落としちゃったじゃない」
「――悪いな」
露骨に迷惑そうな女性の声とランプが割れた音で少し意識がはっきりしたのか、男は先ほどよりもしっかりとした声で女性に謝った。彼女はいいえ、と冷ややかに返し、男に問うた。
「それより、何故こんなところに?」
「別にいいだろ、そんなの・・・」
ぶっきらぼうに返すが、女性は引き下がらない。
「喧嘩、じゃないわね?怪我もなさそうだし・・・あ、お酒の臭い」
―― あー・・・面倒くせぇ・・・。
と、男は思ったことをそのまま口に出しそうになったが、一応助けて貰ったのだと考え直し、くらくらする頭を押さえながら答えた。
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