前奏 - preludio -

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「飲んでたんだよ、酒場で」 「酒場・・・?」 怪訝そうな顔で女性がつぶやくが、男は気付かずに続ける。 「兄貴の、誕生日でさ。毎年祝ってやっててつい飲みすぎただけだ。兄貴、酒にすげぇ強くて、まあ、俺はそんなに強くないんだけど・・・って、あんたにゃ関係ねえよな。あはは・・・悪かったな面倒かけて」 そして勝手に話を終わらせて歩き出すが、女性が腕を強く掴んで阻むので思わず不機嫌そうに振り返るが、彼女はひるむことなく言った。 「待って、そんな状態じゃ帰れないわよ。送ってくわ」 「いや・・・さっきよりは大丈夫だ。ありがとなぁ」 男はにへらっとした笑顔で返すと、女性を背を向けて歩いて行き――三歩目を踏まないうちに崩れ落ちた。  女性の駆け寄ってくる音がして、男は悪いな、と言おうとしたが言葉にならず、抱き起こされているのを遠くで感じながら、男は意識を手放した。 +  +  +  眠りに落ちた酔っ払いを抱えてどうしようか考えていると、前方からランプの光が走ってきた。  そして、自分達に光が届いたところで相手がほっとしたように声を上げた。 「大尉!やっと見つけた!!・・・ってどうしたんですか、その人?」  大尉、と役職で自分を呼んだのは同じ軍服を着た青年。 目をまんまるくして男を見ている彼の胸のピンバッチは銅色1本――少尉である。 「少尉。悪いけどこの男性をお願い」 「え!?ちょ、どうすれば・・・」 「軍本部の医務室にでも連れて行ってくれる?」 「あっ・・・は、はい!!!」  少尉は慌てて男性を担ぎあげ、少しよろよろしながら歩いて行く。  大丈夫かしら、と心許なさそうに彼を見たが、視線を路地裏に戻して呟いた。 「―― 路地裏の酒場、ね」
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