君との一年

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 素直で、明るくて、好奇心旺盛。  私がやってる研究のことなんてなにひとつわからないくせに、やたら話を聞きたがる。で、すごいしか言わない。なんともバカっぽい。  だけど、それはすごく素直でまっすぐな言葉で、なんだかくすぐったかった。  私は典型的な理系女というやつで、なんでもかんでも合理的、論理的に物を考えたがる。  まわりの人もそういう人ばかりだし、気にしたことはなかった。でも、時々冷たいなんて言われたりすると、少しばかり落ち込みもした。別に、私や、私が研究してる物理のことなんて理解してもらおうなんて思ってない。なのに、だから理系はとか、そういう風に言われるのは心外だ。  理解できないことを、理系のせいにするのはやめてほしい。  だからこそ、「私バカだから全然わかんないけど、岸田さんがすごいってことはわかる」となぜか胸をはって言う小町を見ていると、元気をもらえた。  そんなこんなで、一年が過ぎ。  今もこうして、変わらない関係を続けている。  疲れるときもあるけれど、なんだかんだで心地いい。 「岸田さん?」 「うん?」 「どうしたの? ぼーっとして。運転中に呆けるのはだめだよ」 「ああ、ごめん。なんか、昔のこと思い出してて」 「昔? 私との蜜月とか?」 「変なこと言わないの。でも、君のことを思い出してたのは本当」  駐車場に入るための渋滞のせいで、車はなかなか進まない。窓の外を見ると、浴衣を着た男女が仲良く歩いているのが見えた。 「ちょっとちょっと岸田さん! そこで止める?」 「なにが?」 「いやいや。私のこと考えてたんでしょ? それ、めちゃくちゃ嬉しいんだけど」 「そう?」 「うんうん。もうね、心に花火がどかーんって感じ」 「すごくバカっぽいね。思い出してたのも、君のバカエピソードばかりだから、嬉しがられてもこまるな」  少し意地悪いことを言ってみる。でも、小町はにへらとだらしなく笑う。 「全然。おバカな私でも、岸田さんの思い出の中にちゃんといるのは嬉しいよ」  思わず吹き出してしまった。ああそうだった。この子は、こういう子だった。
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