君との一年

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「なに? どうしたの?」 「いや、なんでもない」  渋滞が流れ始める。誘導されるまま、私は車を駐車場に滑り込ませ、小町と共に車を降りる。 「暑いな。これから人込みの中に行くと思うと、気が引ける」 「大丈夫だよ。岸田さん、ここで待ってて」  と言うやいなや、小町は駆けだし、人込みのなかに消えた。 ぼんやり待つこと数十分。小町がラムネを二本とたこ焼きを一舟持ち、帰ってきた。 「脇が冷たい!」  たこ焼きとラムネの瓶で両手がふさがっているので、もう一本の瓶を脇に挟んでいる。 「岸田さん、はい」  たこ焼きとラムネを受け取る。小町は脇に挟んでいたラムネの瓶をあけ、腕時計を見た。 「じゃ、行こうか」 「どこに」 「行けばわかるさだよ」  そう言って歩き出す小町の後ろについていく。たどり着いたのは、東浜。  海と、その先にある島を見渡せる西浜と違って、海以外だと駅やらレストランやらが見える場所。 「花火みるだけなら、ここで十分だからね」  小町がタオルを敷き、座る。 「岸田さんの分もあるからね」  もうひとつタオルを敷きながら小町が言う。  並んで腰かけ、たこ焼きを分け合う。 「ラムネ飲まないの?」 「こういうの、あけるの苦手なんだ」 「物理やってるのに?」 「野球やってるみたいな言い方はやめてくれないかな。それに、それとこれとは関係ない」  小町が私の分の瓶もあけてくれた。  歓声があがる。  同時に、花火が夜空に咲いた。 「おお! たーまやー!」  小町がおおはしゃぎで言う。
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