1、小宮→はじまりのタヒチアンバナナマンゴー

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 じわーっとにじんできた涙を死ぬ気でこらえていると、どんどん目のフチにたまっていく。目から出てきたその水分は、垂れ流さなければきっとただの「うるおい」だ。  新卒で入社した会社の、新人歓迎会の夜だった。  さっきから僕は、自分が泣くほど悲しいという事実を、どうしても認められずにいた。だから、溢れてくるものを一滴たりともこぼすまいと、上を向いて必死に耐えていたのだ。  なぜかって、こんなこと最初からわかりきってたことだから。  そうだ。なのに、どうして泣く。男の涙なんかキモいだけ。  そうやって、半ば強引に自分に言い聞かせ携帯を握りしめたのは、居酒屋が入ったビルの、油っぽい非常階段でのことだった。建物内のたくさんのテナントからは、笑い声や店員の声、調理のにぎやかな音が聞こえてくる。全部がまざりあって猥雑な盛り上がりをみせていた。  そんな中僕は一人、携帯に届いた残酷なメッセージに打ちのめされつつも、懸命に自分自身と戦っていた。歓迎会を中座してしばらくたってしまっていたが、どうでもよかった。  ……とはいえ、何で僕はこんなに涙腺がゆるいのだろう。(それを思うだけで泣きそうだ)悲しい時はもちろん、嬉しい時でもすぐ泣けてくる。めちゃくちゃ恥ずかしいし情けないが、こればっかりは自分ではどうしようもない。だからせめて今日くらいは、この水分をなかったことに……。  なんて、必死の僕の努力は、マジで残念な五秒後にあっけなく無となった。  というのも、突然大野さんによって後頭部を「すぱこーん」と情け容赦のない「いい音」で叩かれたからだ。表面張力ぎりぎりにふんばっていた僕の涙は、「ぼろぼろ」どころか、「びょーっ」と、前にふっとんだ。 「大野さんっ! な、なんなんですか!」
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