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社会人一年生とはいえ、もういい大人だ。人から頭をはたかれるって、ありえない。
こんなありえないことを平気でする大野さんは、僕の直属の上司で「新人教育係」、やることが小学生レベル、かつおっさん、小柄で、顔も妙に若いが四つ年上、そのくせつやつやした肌にサラサラの黒髪、目はくりくりしている。
最初会った時は同期の新卒かと思った。スーツを着てなかったら、バイトの学生と間違えたかもしれない。
そんなかわいい容姿でありながら、大野さんときたら、会ってしょっぱなからズカズカズカズカ土足で僕に踏み込んでくる。無神経な言動を平気でしかけてくる。
それに対して、なぜか僕は「!」という感じに反応してしまう。会社なのに、仕事なのに、上司なのに、いちいちリアクションしてしまう。
涙もろくてすぐテンパる性格にもかかわらず、昔から冷たそうとか、表情が乏しいとよく言われる僕は、人と関係を築くのも時間がかかる。なのに入社このかた、大野さんと同じレベルになって、キャンキャンキャンキャン吠えてしまう。
「小宮、お前トイレっつって、おせーんだよ。『タヒチアンバナナマンゴー』とか頼みやがって、てめーはギャルかっ。ってか一人で遊んでんじゃねーよ、新人!」
アルコールを基本的に摂らないようにしているから、飲み会ではいつも一杯目からソフトドリンクだ。そんなのこっちの勝手だ。
乾杯して前菜とトムヤム鍋が来たころに、メールが来たのだ。表示された名前を見て、すぐさま僕は宴を中座した。大野さんは、そんな僕の態度の何から何までが気に食わないようだった。
そしてなかなか帰ってこない僕を、イラつきながら探したところ、一人スマホをいじっていたのでムカついたようだ。
僕は大野さんの無駄に少年っぽい顔を睨みながら、声を荒げた。
「失恋してたんですよ! 悪いですかっ……」
すごく努力したにも関わらず、決壊してしまった涙はだらだらだらだら頬を濡らしていた。ヤケクソになって携帯の画面を大野さんに見せる。
頭にきていたので、メールの文面がわかるようにわざと顔の前に突きつけた。普通叩くか? 普通人の頭、突然はたくか?
情けなさと恥ずかしさはピークだった。屈辱で頭がぐらぐらする。こうなったら、もう、全部さらしてやれと思ったのだ。
気持ち悪がるなり、なんなりしろ。
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