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私は知佳に言われて、ベッドに横になった。枕の上に何枚もバスタオルを敷き、右耳を上にして頭をのせる。
「動かないで」
知佳がティーポットからオリーブオイルを少しずつ私の耳に注いだ。耳の中が暖かいもので満たされていく。
半分ほど満たされた時、何かが耳の中でもがき始めた。皮膚を小刻みにひっかかれる感触。オイルに満たされた耳の中で、その動きはグオゥグオゥという音として聞こえた。
耳の中を傷つけられるという恐怖で跳び起きたくなったが、我慢した。知佳がベッドに付いた手をつかみ、ぎゅっと握る。
グオゥグオゥ、グオゥグオゥ、グオゥグォ。
グオゥ、グォグォ……。
時間がたつにつれ、耳の中の動きは少しずつ小さくなっていく。
グォグォ、グォグォ……、グォ……、
グォ……、グ……。
それは断続的な動きになり、間隔が広がり、ついに動きが完全にとまった。
「動かなく……、なったわ」
「念のため、もう少しそのままでいて。時間を計っておいてあげる」
私は横になったまま、ぼんやりと知佳と過ごしたこの六日間のこと、そしてピアスホール
を開けた日のことを思い出していた。発熱のため、はっきり思い出せないところもある。耳の中にいるのが何かは、怖くて考えたくもなかった。
でも、いくつかの記憶が結びつき、意味を持つものに思えてくる。ある疑惑が心の中で形を取りはじめた。
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