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再び、知佳と並んでベッドに座り、思いつくまま頭に浮かんだことを話した。
「この蜘蛛はいったい何なのかしら、耳に住みつくなんて。もしかして、人間が獲物なのかも。人間の体に寄生し、血を吸って生きているのよ」
知佳は私の考えに懐疑的だった。
「そんな蜘蛛がいるなんて聞いたことがないわ。たまたま、入り込んだだけじゃないの」
「宿主、つまり寄生された人間と共生関係にあるんじゃない? 血吸い蝙蝠が麻酔物質を出すみたいに、何かの化学物質、脳内麻薬みたいなもの、を分泌して宿主へのごほうびにし、自分たちの繁殖を手伝わせているのよ」
「繁殖を手伝う宿主って珠緒さんのこと? でも、わたしも珠緒さんにピアッシングしてもらったけど、耳の中にチクッなんてことは無かったわ。耳に蜘蛛がはいっていないのも見たでしょ」
「全部の人に植え付けているんじゃないかも。何か特別な条件が……」
「なんだか妄想の世界ね。ずっと家の中にいるから、そんなことを考えるのよ。外に出てきれいな空気を吸ってくるといいわ。これは……」
知佳はバスタオルやティーポットを目で見やった。
「わたしが片づけておいてあげる」
知佳の顔を見ていると、なんだかそれがとてもいい考えのように思えてきた。
「ありがとう。そうさせてもらうね」
私はTシャツとジーンズに着替えると近くの公園に散歩に出かけた。体調もずいぶん良くなった気がする。見上げた太陽がまぶしかった。さっきの考えがばかばかしいものに思えてくる。振り返ると、ワンルームマンションの私の部屋のベランダから知佳が私を見守ってくれていた。
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