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十分ほど後、私は珠緒さんに呼ばれ、施術室に入った。ヘッドレストがついた椅子に座らされる。ヘッドレストから前にのびたアームに鏡が付いていて、耳を正面から見ることができた。鏡を見ながらピアスホールの位置を決めて、マーキングしてもらう。ヘッドレストに頭を押しつけてじっとしているよう言われた。
アルコールを染みこませた脱脂綿で右の耳たぶを消毒される。すっとする清涼感の後、半透明の軟膏を塗られた。一転して、生暖かいものに覆われた感触になる。
珠緒さんは滅菌パックから太く鋭い針を取り出した。右手で針をつまみ、左手で私の右の耳たぶをつかむ。
「痛いのはほんの一瞬です。頭を動かさないでくださいね。」
そう言うやいなや、耳たぶに針をつき刺してきた。チクッとした痛み。針が一気に根元まで押し込まれて行く様子が鏡に映った。続けて、針のお尻にファーストピアスの軸を押しあて、一緒に押し込んで来る。針が押し出され、ファーストピアスの軸が貫通すると、珠緒さんは耳の後ろ側に留め具をはめて固定した。彼女の言った通り、最初にチクッとしただけでその後はほとんど痛みを感じなかった。
「右耳は装着できました。これから左耳にかかります」
左耳も同じように、消毒、軟膏、穴あけ、挿入、留め具装着の手順で進んだ。やはり痛いのは針を突きさす時だけだった。
意外に簡単だったわねと思っていた時、珠緒さんが私の右耳を見て難しい顔をしているのに気付く。何か問題があったみたい。
「少し調整しますから、じっとしていてくださいね」
彼女は右手を私の顔に押しあてて、私の右耳に顔をよせてくる。彼女の頬が私の頬に触れた。何をしているのだろう、彼女の頭が邪魔して鏡では見えない。直接見ようと横目を向けた時、暖かい湿ったものが耳の内側に触れ、耳の奥にチクッとした痛みがした。ひりひりした痛みのピアスの傷口とは違うところだった。
「はい、大丈夫ですよ」
珠緒さんはそう言って私から離れた。何があったのか理解できていない私に、てきぱきと術後の手当ての説明を始めた。毎日消毒薬を塗り、ファーストピアスが癒着しないように前後に少しずつ動かすこと、体質によっては発熱するかもしれないこと、1週間以上熱が下がらないようなら病院へ行くこと、などだった。
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