5人が本棚に入れています
本棚に追加
蜘蛛たちは不規則に動き回っていたが、そのうちの一匹が私に頭を向けて静止した。そして別の一匹も。私が見ていることに気付いたのだろう。蜘蛛は少しずつ私の方に頭を向ける。
そして全ての蜘蛛の方向が揃うと、一斉にこちらへ向かってきた。
蜘蛛はテーブルの端まで来ると、糸を出してぶら下がり、床に降りる。さらに床の上を這って近づいてきた。ベッドの足もとまで来ると、ベッドの陰になって姿が見えなくなった。代わりに小さなカサカサカサという音が聞こえてくる。
夢の中の自分をもう一人の自分が眺めている感覚があった。私は心の深いところで、蜘蛛が私を獲物と見做していること、そして、身動きできない私が抵抗できないことを知っていた。
眺めている方の私は、蜘蛛に恐怖するとともに、好奇心にかられていた。襲いかかる蜘蛛、そして蜘蛛に食べられる自分の姿を見ていたい。思いは倒錯し、渦巻いていた。
カサカサカサ。
音は聞こえるが、いつまでたっても蜘蛛はベッドの上に現れなかった。そして、私は気がついた。血吸い蝙蝠のように、蜘蛛たちも私の背後から近づいている、いや、既に私に取りついていることを。
カサカサカサ。
蜘蛛たちは獲物に痛みを感じさせずに血をすする。優しく、巧妙に。獲物の血が尽きる時まで。
カサカサカサ。
足音を聞きながら私の意識はまどろみの中に溶けて行った。
最初のコメントを投稿しよう!