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医療技術の目覚しい発展のおかげで、人は死と無縁になっていた。遺伝子治療で病気のリスクは事前に排除し、老いることもない。怪我等で損傷した組織は注射一本で再生し、瞬く間にもとに戻る。今や死にたくても死ねない時代だ。
(できないとなると、したくなるのが人間の性。だからこんな商売が成立するんだ……)
そんなことを思いながら男はほくそ笑む。彼が雑居ビルの一室で開いた店は『安全に死の体験を』のキャッチコピーで人気を集め、毎日客が途絶えることは無かった。
その日も店には一人の女が訪れていた。既にベッドに横たわり、複雑な装置に繋がれている。先ほどから閉じた瞼越しに、眼球の激しい動きが確認できた。
やがて彼女が目を開くと、男は繋がれた何本ものコードやチューブをはずしながら訊ねた。
「いかがでしたか?臨死体験、ご満足いただけましたでしょうか?」
女はゆっくり起き上がると、満面の笑みを浮かべた。
「すごいわ。こんなの初めて。最初は暗いトンネルの中を歩いていたの。そのあと急に明るくなって、気がつけば綺麗なお花畑にいたわ。でもね、どこからともなく声が聞こえてきたの。『戻っておいで』って。何度も言ってたわ。それで来た道を戻ったの。そうしたら、この世に戻ってきた。確かあの声には聞き覚えがあるわ。誰だったかしら……」
首をかしげる彼女に男はクスリと笑ってみせる。
「きっと、あなたを大切に思っていらっしゃる方の声ですよ」
その言葉に女は目を潤ませた。
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