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ビルの戸口まで見送りに出た男は深々と頭を下げた。
「ありがとうございました。またのご利用を」
「もちろんです。今度は友だちも誘って来ますね」
興奮気味に言って、女は去っていった。
その後姿を見送りながら、男は呟いた。
「単純なものだ。人はみんな自分の中で臨死のイメージが出来上がっているんだ。だから眠らせるだけで、勝手に死後の世界へ行ったと思い込んでくれる。夢を見ただけなのに……」
そこで彼は慌ててあたりを見渡した。誰もいないことを確認すると安堵の表情を浮かべる。
「よかった、誰にも聞かれなくて。これは墓場まで持っていかなきゃならない秘密だからな」
言ってから、彼は自嘲の笑みを漏らした。
「おっと、人間は不老不死だ。持っていこうにも墓場は無いんだった」
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