第1章

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「何怖い顔してんのさ。折角この雪実様がお兄様の様子を見に来てやったというのに。」 「余計なお世話だ。…それに、今はそういう気分じゃない…。」 何度かこの軽いノリに救われたこともあった。だが、最近ではそれが鬱陶しく感じるようになってしまったのだ。 原因は全て、押し付けがましい親のせいなのだが。 雪実のせいではないのにどうも八つ当たりのようなものをしてしまう。 蒼は自分のことを“情けない”と心の中で責め立てた。 「ふぅん……。私には次期当主サマの気持ちはわかんないんだけどさ。深く考えすぎじゃない?」 「おまっ、人の気も知れないで…。」 「わかるよ」 先程の弾んだ声から一気に抑揚のない声へと変化した。 例えるならば、留守番電話の女の人が出すあの無機質な声だ。
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