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もう一度足元を確かめる。
ここから落ちれば、確実に死ぬだろう。
しかし、何を今更と思うが、一息に踏み出すのは怖い。
僕は後ろに下がり、崖から少し距離を置いた。
ここからなら、3歩進めば空中に足が出る。
躊躇しなくていいように、できるだけ下を見ないように進もう。
そう決意し、僕は足を踏み出した。
一歩目。
何も考えるな。ただただ、まっすぐ足を踏み出せばいい。
「ーーーーーーーぁぁ」
二歩目。
今際の際の幻聴か。甲高い音が聞こえる。だが、気にする必要はない。
「ーーーーーーーぁぁああああ」
三歩目。
を踏み出そうとした時、そのあまりにも大きな幻聴が頭上に迫り、僕は思わず空を見上げてしまった。
「ーーーーーーぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
……何かが落ちてくる。
黒と肌色を混ぜた何かの物体?
いや、これは……人?
あ、これもしかして直撃コース?
視界に迫る”何か”を前にして、僕は前にも後ろにも動くことができず、ただただ見上げるしかなかった。
そして、”何か”と目が合った気がしたんだ。
刹那、”何か”はとても美しいものだと直感が理解した。
僕は思った。
人生の終わりに、こんなに綺麗なものを見ることができてよかっ
「ひでぶっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
“何か”は僕に派手に激突した。
”何か”と僕は、初夏の太陽が照りつける峻険な断崖を錐揉み状に落ちていき、僕はいつの間にか意識を手放した。
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