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「……ん…うっ………」
黒髪黒服の女の子が目を覚ましたのは、夜9時を回った頃だった。
日照時間が長くなる5月の終わりといえ、さすがに外は真っ暗だ。
「き、気がつきましたか?た、体調は大丈夫ですか?」
できるだけ優しいトーンになるよう声色に注意しながら、僕は女の子に声をかけた。
正直、こういう時に的確な言葉をかけられるほど、コミュニケーションは得意ではない。
どもりながら月並みなセリフを並べるのが精一杯だ。
彼女はまだ状況が認識できていないのか、二重まぶたの下の綺麗な目をぱちくりぱちくりさせながら、ベッドに横たわったまま右を見たり左を見たり僕の顔を見たりしていた。
その彼女の視線が、ある一点で止まった。
ベッドの脇に立てかけておいた、白い鞘に青い装飾が施された剣を見ている。
片側に若干反りのある珍しい形をした剣で、少なくともエスパニア産ではないということしか僕にはわからなかった。
砂浜で目覚めた時、そばに流れ着いていたものだ。
もしかしたら彼女の持ち物かと思い、彼女を家まで運んだ後、取ってきていたものだった。
がばっ!
彼女は一息に上体を起こしたかと思うと、その剣を両手で取り、我が子との再会を喜ぶ母のようにぎゅっと抱きしめた。
「よ、良かった。やはりあなたの持ち物だったんですね」
いっとき剣を抱きしめた後、彼女は僕の方を見るではなく、今度は彼女自身の服をじーっと見つめた。
ちなみに、砂浜ではボロボロだった黒い服、今では新品同様傷一つない状態だ。
彼女はその服を変わらずじーっと見つめている。
一瞬の沈黙ののち、みるみるうちに彼女の頬が膨らみ、顔全体がリンゴのように赤く上気した。
こちらを「キッ」と睨むと、剣をゆっくり脇にたてかけ、ベッドから降り…………叫びながら全力で僕を殴ってきた!
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