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さてここで、わたしの母であるアンドロイドの話しをさせてただきます。
緑の瞳がとても綺麗なアンドロイドです。表情は、最新のアンドロイドみたいに活発ではありません。それを指摘すると、作ってくれた人があまり表情豊かではありませんでしたから、とゆっくり笑いました。
アンドロイドは、わたしが、お母さん、と呼ぶのを決して許可しませんでした。いつもそれが哀しくて、なんて呼べばいいのかわかりませんでした。途方に暮れて泣き出して、困らせたこともあります。
……そんな顔をなさらないでください、皆さん。アンドロイドはわかっているのです。人はアンドロイドを置いていくことを。いつか十歳の幼い姿を母と呼ぶことがちぐはぐになってしまうことも、母を置いて娘が先に逝ってしまうことも。
みどり、と呼びなさいと言われました。泣くわたしの頭を撫でる手は、とてもちいさかった、です。
わたしとみどりは町外れの元ラボで暮らしています。みどりの作り主の人のラボだったそうです。少し、寂しい場所です。みどりはわたしが来るまで、そこでひとりで五年も暮らしていたそうです。作り主の遺品に囲まれて。
わたしが来た時は毎日が嵐のようでした、とみどりはよく言います。なんて言ったって今まで関わりのあった人は、作り主と、非常に少ない人数の知り合いだけだったのですから。マニュアル通りにいかないのは本当に困りました、とこれもよく、言っています。
いろいろありましたが、それなりにわたしは育ちました。明日はハイ・スクールの卒業式です。みどりも来てくれます。わたしの母が、来てくれます。
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