家族と体温。

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今回の卒業発表のテーマは「あなたの家族」です。政府直下であるこの学校の卒業発表にしては感情的で幼稚だと、学生全員が感じました。そして大勢の生徒が卒業発表に困りました。グラフも数字も役に立ちませんから。 その様子が、わたしにとっては少し苛立たしい感情を起こしたのは事実です。血の通った、あたたかくておおきな手のひらを持つ家族に囲まれて育ち、なんだその為体は、と。 わたしの父は、残念ながら家族ではありません。……ああ、いえ、家族ではあります。しかし彼の手のひらをわたしは知りません。父とわたしで話し合って決めました。父と、わたしは、家族になれなかった。 ああもう、泣きそうな顔をして。もう数年も前に決めたことなんですけどね。……大丈夫、わたしはまだ若いんだから。人生は長いのよ。 さて、話しを戻します。わたしはあたたかい手のひらを知りません。おおきな手のひらも知りません。抱き上げられたことも、本当にちいさな頃までです。わたしのこの声が、お母さん、と言ったこともほとんどありません。 でもわたしは、みどりの瞳が優しいことを知っています。塞ぎこんで自室に籠ったときに、寒い廊下で座り込んでいたのを見たことがあります。花の名前を教えてくれました。虹を見せてくれました。許すことを教えてくれました。おかえりという声を毎日聞きました。 家族とはいったいなんなのでしょう。 血の繋がりもなく。 体温もなく。 ただ、瞳を合わせて、手のひらを繋いだだけの存在を、家族と呼んでもいいのでしょうか? わたしの答えは、もちろん、イエス、です。
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