死なばもろとも墓場まで

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 *****  空には灰色の分厚い雲が垂れ込めている。  真冬の極寒とも言える真夜中の庭で、二人の男はせっせと雪をかき集めていた。  京の地形は湿気の多い盆地となっている。  それ故に水分を含んだ夜の雪はガチガチに凍り付いてどうにも歯が立たたず、大の男でも重労働だった。 「全く。何だって俺がこんな事を」 「おい斎藤。口じゃなくて手を動かせ。誰かに見つかる前にさっさと終わらせるぞ」 「はぁ……はいはい、分かりましたよ」  適当に相槌を打ちながら、斎藤と呼ばれた男はまたおもむろに手を動かし始めた。  確かに、こんな現場を誰かに見られでもしたら正直たまったものではない。  自分はまだいい。  困るのは多分、自分ではないもう一人の男の方だろう。  その黙々と作業を続けている男に、斎藤はじとりと恨めしげな視線を送った。  実はこの男、京の都で「壬生狼(みぶろ)」と恐れられる斉藤達でさえもが鬼だと恐れを成す存在  京都守護職会津藩御預(きょうとしゅごしょくあいづはんおあずかり) 新撰組副長(しんせんぐみふくちょう) 土方歳三(ひじかたとしぞう)  その人である。  そんな鬼副長にうっかり目を付けられた斉藤は、不幸にも今現在このようにして不可思議な私事に付き合わされているのだった。 「もう一度お聞きしますけれど、何故俺なのでしょうか。どうせなら原田さんや永倉さん、藤堂さん辺りにでも頼めば良かったのでは」 「あのな、こんな事をあいつらなんかに頼んだ日にゃどうなると思う。一気に噂が流れて隊中のいい笑い者になるのがオチだろう」  遠い目をして土方は言う。  成る程。馬鹿馬鹿しくも、一応納得せざるを得ない回答ではある。 「それに比べておめえは実直で口が堅い。一番信用出来るからだよ」 「分かりました……褒め言葉として受け取っておきましょう」
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