死なばもろとも墓場まで

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 さて、この雪を集めてどうするのかと言えばだった。 「全く、この歳にもになって雪達磨を作る羽目になるなんてな」 「人を巻き込んでおいてぼやかないで下さい。大方沖田さんにでも強請(ごね)られたのでしょう?」  (くだん)の沖田とは。  沖田総司(おきたそうじ)。新選組の中でも屈指の剣の使い手で、十番隊まである隊の中でも一番隊の隊長を務めていた。  ちなみにこの斎藤一(さいとうはじめ)は三番隊隊長の任を預かる。  沖田は人懐こい性格で、非番ともなるとよく近所の子供達を相手に朝から晩まで遊び回っていた。  それが一度(ひとたび)剣を握れば、まるで人が変わったようになる。  稽古中でも手加減という事をしない為に、怪我人が続出すると言った有り様だった。  そんな沖田も病には勝てなかった。  肺を患い、現在は一日の殆どを床で過ごすような生活を送っている。 「あいつ、退屈で時間を持て余してやがる。とっ捕まって昔話をされて、終いには散々に嫌味を言われた」 「昔話? ああ、試衛館(しえいかん)時代の話ですね」  試衛館とは、新選組の局長である近藤勇(こんどういさみ)がまだ江戸にいた頃、天然理心流(てんねんりしんりゅう)の道場主を務めた剣術道場の名だ。  土方と沖田は、そこで近藤と共に兄弟同然に過ごしてきた。 「昔、あいつが作った雪達磨にうっかり手を付いちまった事があって……まあ、その結果が倒して壊してしまった訳だ。それをまだ根に持っていやがる」  ぴたりと斎藤の手が止まる。あまりの幼稚さに唖然とした。  だが成程、沖田とはそう言う男であった。
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