27人が本棚に入れています
本棚に追加
「その時の物よりも大きい雪達磨を作る約束をしたんだが、結局それきりだった。それを、この雪を見た途端に思い出したんだと」
鬼の副長も沖田に掛かると形無しだ。
斎藤は、土方が沖田を実の弟のように可愛がっている事を知っている。
沖田もまた、土方を兄のように慕っていた。
「それで駄々を捏ねられて、こんな夜分に雪達磨作りですか」
「あいつは作れとは言っていない。ただ、昔話をして嫌味を言ってきただけだ」
「じゃあどうして作っているんです? こんな物を今更……」
そう言いかけて、斎藤は言葉を止めた。
土方はそれ以上何も言わない。ただ黙々と作業を続けている。
(ああそうか。今更じゃなくて、今だから、なのか……)
このような生業をしていると、いつも自分達は死と隣り合わせである現実を突きつけられる。
――剣と共に生き、剣と共に死ぬ――
この生き方に抗うつもりなど無い。
新選組に居る皆も、その覚悟はとうに出来ているはずだ。
しかし、沖田は違う。
今は病と言う、謂わば剣とは無縁の敵を目の前にして抗う術を無くしているのだ。
剣こそが総てであった彼だからこそ、それは不本意極まりないものであるに違いない。
最初のコメントを投稿しよう!