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ちらりと小さな白い物が視界をかすめ、斎藤はふと視線を上げた。
「ああ……また降ってきましたね」
「ここに来ての新雪はありがてえ。この頑固な雪には辟易していた所だ」
新たな雪はみるみる内に古い雪の上へと層を重ねていく。
おかげで作業の進み具合が大幅に上がった。
そうして、大の男二人の作った雪達磨が完成した。
丑の刻をとうに過ぎた頃だ。
「よーし、これで文句はねえだろう」
画竜点睛に満足げな土方の傍らで、斉藤は内心笑いを堪えるのに必死だった。
これを鬼の副長が作ったのだと洩らした所で、誰も信用などしないのではないだろうか。
それは何とも可愛らしく愛嬌のある顔付きをしていた。
「ご苦労だったな斎藤。今日はもう非番でいいぞ」
「当前ですよ。こんなに手が悴んでちゃあ、まともに剣も振るえやしない。風邪でも引いたらあんたのせいだ」
恨み言を言い置き、さっさと部屋へ戻ろうした所で土方に慌てて呼び止められた。
「おい待て、ひとつ言っておく事がある。いいか、この件は絶対に他言無用だ。墓場まで持って行け」
「言われなくとも言いませんよ。しかし、墓場までとはまた大層ですね」
「分かるだろう、念には念を入れてだ」
そこには狼狽を隠せない優しい赤鬼の顔があった。
こんな一面をひた隠し、この人は今まで鬼の威厳を保ってきたのか。
それを見る事の出来た自分が、得をしたのか損をしたのか――斉藤はそれすらもよく分からないでいた。
土方と別れて部屋へ戻る途中、後ろから大きなくしゃみが聞こえてきた。
誰のものなのかは、もう言うまでもないが。
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