27人が本棚に入れています
本棚に追加
その日の朝、屯所はこの雪達磨の話題で持ち切りになっていた。
皆非番なのかと思う程、ひっきりなしにざわざわと煩い。
とても眠れたものではないと、斉藤は仕方なく早々に起き出すしかなかった。
「一体誰が作ったんだ? 隊の中の誰かか?」
「まさか、近所の子供が夜中にわざわざ屯所に入り込んで作ったとでも?」
「いい大人が作ったのだとしたら、まあこの寒い中で酔狂にも程があると言うものだ」
皆好き勝手に話している。
側に当事者がいるとも知らずにだ。
「あ、一さん、お早うございます」
ふいに後ろから明るく声を掛けられた。
沖田総司――この話題の原因を作った張本人のお出ましだ。
「ねぇ見ましたか、あの大きな雪達磨。隊の中にも暇な人がいるものですねぇ」
「もしかするとその暇人のお陰かな。あんたも今朝は調子が良さそうだ」
「ふふふ、そうなんですよ。今日は朝から気分が良くて。実は丁度昨晩に、こんな雪達磨が見たいなあ、なんて話を土方さんとしていたんですよね」
悪びれた様子など微塵も無いなと、斉藤は話し相手をしながら苦笑する。
分かってはいたが、こいつは明らかな確信犯だ。
いかにもわざとらしく、総てを理解した上でこんな話をしている。
最初のコメントを投稿しよう!