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「何だか元気がないね。
まだどこか痛いの?」
ぼーっと考え込んでいたところに不意に覗き込まれて、陰鬱な顔を取り繕う暇もなく見つかってしまった。
頑張って笑おうとするけれど、引きつってしまう。
「慣れない下駄で歩いたから痛めたかな、休もうか」
彼の気遣いに複雑な思いを抱きながらコクンと頷いた。でも確かに下駄の鼻緒の当たるところが擦れて痛いような気がする。
連なる屋台の切れ目で混雑する道路から抜け出すと、そこは店の前が広くなっていて自転車が数台止められている書店の店先だった。
丁度腰かけられそうな植え込みの煉瓦の土台が端にあって、真崎氏に手を引かれてそこに腰を下ろした。
書店はまだ営業しているらしく、お祭りの喧騒とは隔絶した感のある明るい店内が見える。
私をモデルに書いた小説が見つかるだろうか。
「カフェの浴衣とエプロンも可愛かったけど、この浴衣も似合うね、阿弥津に礼を言っておこう」
そんな言葉が上から降って来て、振り返るとストローのついたかき氷のコップを私に受け取らせようとしている真崎氏の綺麗な笑顔が間近にあって、わっと落としそうになる。
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