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レジの対応をして空いたテーブルを拭いていると、芳しい香りが漂って来た。
オーナーマスターが丁寧に豆を挽きコーヒーを淹れているのだろう。
ここで何年もカフェレストランをやっていると言うマスターは白いお髭と白いシャツに黒いタブリエがとても似合うダンディなおじいちゃんだ。
手作りのケーキやハンバーグ、ピザなど、メニューは少ないけれどどれも美味しい。
料理は全てマスター。
私は普段は厨房で野菜の皮むきや下ごしらえ、洗い物をしている。
今日はフロア担当が休んでいる為に借り出されているのだが、お陰で見たくもない光景を目の当たりにしてしまった。
我が身の不運を嘆きながらも、彼女と何か真剣に話し込んでいる真崎氏の整った横顔に一瞬見蕩れてしまった自分に喝を入れる。
疼く胸を気の所為にして、平静を装い注文の品を運んで戻って来ると、そろそろ夜のバイトと交代の時間。
「璃子ちゃん、ちょっと相談があるんだけど、上がる前にいい?」
振り返るとマスターがスタッフルームを指していた。
ドキッ!
今日はお皿を割ってないし、お客様の注文も間違えてないけど、開店前の掃除の時に、モップの柄で後ろにいたマスターの背中を突いてしまったし……
そうだ!
常連さんだったから笑って教えてくれたけど、5千円札を一万円札と間違えてお釣りを渡そうとしちゃったんだった……
もしかして……
クビ?
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