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「俺も、時雨にちゃんと言いたいって思ってた」
真剣な眼差しで僕を見る晴人に、口を挟む気が起きなくて聞くことにした。
「さっき、時雨の困った顔を見ると興奮するって言ったでしょ?」
「……うん」
「あれ、中学の時の俺は自覚してなかっただけで、同じことだったんだ。兄弟だから時雨は先に生まれた分、我慢して俺におもちゃとか譲る機会が多かったでしょ?」
昔を思い出しながら晴人が言うことに、僕は首を振って頷いて見せる。
随分懐かしい話だなと思えるぐらいには、時間の経過を感じる。
「あの時さ、実は俺の為に我慢してる時雨の顔を見ると、嬉しかったんだよね。だから小さい時は、それ見たさに何でも時雨の物を欲しがってた」
言われて、そう言えば……と、過去の記憶が蘇ってくる。
「馬鹿な発想だけど、我慢して譲ってくれる時雨の中心には俺が居るって、そう思ってた。けど……ずっとは無理だって事が分かったのが、中学のあの時だ」
「それって、どういう……」
「中学の時さ、別れたばかりの時雨に彼女と付き合うって言ったの、あれ……嘘だったんだよね」
「え!?」
晴人の口から出てきた真実に、ビックリした僕は思わず声をあげてしまった。
「ごめん。本当に子供過ぎて馬鹿みたいなんだけど……。あの時、時雨の様子から彼女と別れたのが分かって、ここで俺が付き合うって言いだしたら、昔みたいな表情をしてくれるかもって、つい……」
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