ある日の朝

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   けれど、僕からは何も出来ず、弟が退くのをジッと待っていた。 「ほっそい、腰」 「ひゃっ……」 様子を窺っていた所へ急に、弟の手が僕の腰へ伸びてきて、掴まれた。 あまりにも突然だったから、今度は声を堪える事が出来ずに、思わず出てしまった。 「兄さんって、びんかーん。こんな細い腰で、女の子とちゃんと出来るの?」 「っ……! お、お前っ……」 揶揄かわれてるのは分かってるけど、反射的に顔がカッと赤くなってしまった。 それを知られまいとして、怒る様に声を張り上げる。 「はは、じょーだんだって」 僕が後ろを振り返るのと同タイミングで、弟の手が離れていき、それだけ言うと、洗面所から出ていってしまった。 「あいつ……」 一人残された僕は、赤い顔を隠す様に手で覆った。 数日前の夜……寝てると思いこんで、弟が僕の身体を愛おしそうに後ろから抱きしめていた。 ふと目を覚ましてしまった僕は、あの時の感触が……忘れられないでいる。 あの日……弟は、どういうつもりであんな事をしていたか、分からないし、知りたくも無い。 けれど、僕が今一番知りたくないものは……じくじくと広がって行く、この厄介な自分の感情だった。
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