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みんな、ぼうぜんと立ちつくしていた。
急に逃げだしたのは、ヒロキだ。わあっと叫んで、ろうかへ、とびだしていく。
「待てよ。ヒロキ! どこ行くんだ」
アスヤがナツキの手をひいて追っていく。
たぶん、キリトも、ついていった。ヒロキが懐中電灯を持っていったので、はっきりとは、わからないが。
ユウヤは走りかけて、立ちどまった。
エリカは放心したまま、ナオトの死体を見つめてる。
「エリカ」
その手をつかみ、ユウヤも走った。
やっぱり、ヤバイことになった。こんなことになると思っていた。
一階のホールまで逃げだした。
みんな、そこで息をきらす。
ガタガタふるえながら、ヒロキが、つぶやく。
「なんだよ……なんで、死んでんだよ? ナオト」
「マサルかな……」と、アスヤ。
「なんで、マサルが?」
「知らないよ。でも、外からカギかけたのも、あいつだし」
「外に出たなら、なかに戻れないだろ?」
「他の入口から入ったのかも? 非常口のカギも持ってんじゃ?」
「じゃあ、あいつ……なかにいるのか?」
キリトがバカバカしくて話にならないふうで肩をすくめた。
「待てよ。なんで、マサルがナオトを殺すんだよ?」
「そんなこと、わかんないよ。でも、頭よすぎるやつは急に変なことしだすじゃん」
すると、アスヤが、ふくんだ声で言った。
「ヒロキ。本気で言ってんの? マジ、気づいてないの?」
「何が?」
「おまえさ。けっこう、マサルにヒドイことしてたよな」
「えっ? そうか?」
「おまえ、高校のころ、よくマサルに金、かりてたじゃないか。おまえでなきゃ、カツアゲだよ」
「あれなら、もう返したよ」
「そうかもしれないけど。あの金ってさ。海外に単身赴任のオヤジさんに会いにいくための旅費だったんだ」
「そうなんだ?」
「あいつ、そのために、いっしょうけんめいバイトして。すごい楽しみにしてたのに」
「でも、今からでも会えるじゃん」
「もう遅いんだよ。あいつのオヤジさん、一年前に離婚して、赴任先の浮気相手と暮らしてるらしいし。マサルにしてみれば、あのころ、ちゃんと会ってれば、なんか変わってたかもって思うだろ」
「だからって、ナオト、殺さなくても……」
「ナオトも、なんかしてたのかも」
それは、ありうる。ナオトやヒロキは、マサルがおとなしいのをいいことに、けっこう、いろいろしてた。
今度はヒロキが訴える。
「それ言うなら、アスヤ。おまえだって」
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