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「おれが、なんだよ?」
「マサルの彼女、とっただろ?」
「とってないよ。高校のときのやつ? あれは向こうが勝手にコクってきて……とにかく、おれは断ったし。そもそもタイプじゃなかったし」
「そんなこと、マサルは知らないだろ。かなり落ちこんでたもんな。恨み、買ってるよ」
「おれのせいじゃないよ」
罵りあいが始まる。
さえぎるように、キリトが言った。
「やめろよ。もう。おまえら、二人とも恨み買ってるよ。同罪だろ」
ヒロキとアスヤが、だまりこむ。
静けさのなかで、とつぜん、エリカが悲鳴をあげた。
「な、なんだよ?」
たずねるヒロキは、だいぶ、ビビってる。
答えるエリカの声も、ふるえていた。
「今、そこに誰か、立ってた」
エリカは、ろうかの奥を指さした。さっき、みんなで逃げてきた方角だ。あの暗い階段のある……そして、非常口のある。
「よ……よせよ。ジョークだろ?」
エリカは首をふる。
彼氏が殺されたばっかりで、そんなジョークを言うゆとりなんて、あるわけがない。
ユウヤは聞いてみた。
「どんなやつだった?」
「わかんない。でも、男だったよ。背が高かった」
ヒロキが首をかしげる。
「背が高い? じゃあ、マサルじゃないな」
ユウヤは忠告する。
「暗いし、はっきり見たわけじゃないんだろ。影が伸びて高く見えたって可能性はあるよ」
エリカが、うなずく。
今度は、キリトが、つぶやく。
「やっぱり、おれたち以外の誰かがいるんだ。少なくとも、誰かが……」
ヒロキはアスヤを見た。
「アスヤ。おまえ、毛布、とりに行ったとき、急に悲鳴あげたよな? もしかして、なんか見たのか?」
アスヤはしぶった。が、みんなに見つめられて、やっと、うなずく。
「そうか! やっぱり、見たんだな」
「でも……」
アスヤは、ささやくような細い声で打ちあける。
「でも……おれの見たのは、女の子だった」
「はあ? 女の子?」
ヒロキはアスヤが、ふざけてると思ったようだ。でも、ユウヤは、ハッとした。
「色白で髪の長い美少女だろ? はたちくらいの?」
アスヤは、けげんな顔をする。
「いや。たしかに、ものすごい美少女ではあったけど。五さいくらい?」
五さい……それは、あの人ではない。
ヒロキは不気味そうに、アスヤとユウヤを見る。
「ていうか、おまえら、なんで、そんなもん見てんの?」
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