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たぶん、もとはセキュリティのためだったのだろう。でも、堅牢な造りが、今では迷いこんだ者を閉じこめる牢獄と化している。
まるで罠だと、ユウヤは思った。
おいしいエサをちらつかせ、誘いこみ、一度入りこむと逃げだせなくするーー
(じゃあ、あの子がエサか。レラーー)
もしそうなら、自分は、しっかり罠にハマってしまったということだ。
危険だということを知りながら。
「ほかの部屋も調べよう」と、キリトが発言する。
みんなが乗り気でないのは、となりの病室には、ナオトの死体があるからだ。キリトも、みんなのふんいきで、それを察した。
「となりは、とにかく、あとまわしでもいいよ。二階にも非常階段くらいはあるだろ? そこから外に出られるかも」
一理ある。
それでまた、みんなで、ぞろぞろ移動する。
隣室の前は素通りした。
そのとなりの病室から、なかをしらべる。が、やはり、窓には格子がついている。どうやら、全室、こうなってるようだ。窓からの逃亡はムリそうだ。
ろうかの一番奥に非常口と書かれたドアがあった。が、カギがしまっている。
ひきかえし、今度は三階にあがった。
階段をあがりきったとき、ユウヤは妙な音を聞いた。カタン、カタンと、金属的な。
「あッ! あそこ!」
急に、エリカが大声をだす。
「なんだよ?」
ヒロキがたずねると、
「なんか、動いたよね?」
「なんかって?」
「わかんないよ。暗いし」
一瞬、みんなの足が止まる。
「マサルか?」
「そうかもね」
「どうする?」
ひよるヒロキに、キリトが強い口調で主張する。
「マサルなら、捕まえたほうが安心じゃないか? あっちは一人。こっちは六人だし」
エリカとナツキは戦力にならないとしてもだ。男四人なら、なんとかなる。
「よし。行こう」
ヒロキは単純なので、また先頭に立って歩きだした。
少し進んだときだ。また、エリカが言った。
「見た? さっき、そこの部屋に入った」
ユウヤも見た。
懐中電灯の光がとどく、ギリギリの範囲だ。三部屋くらいさきのドアが、たったいま、動いた。
ヒロキは懐中電灯をエリカの手に押しつけた。
「ちゃんと、照らしとけよ」
どうするのかと思えば、自分はブロンズ像をにぎりしめている。
ユウヤやキリトに、自分と並ぶように、手で合図する。
ユウヤも覚悟を決めた。
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