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その瞬間、ユウヤは、なんとなく、背筋がザワザワした。
どこかから、あの音が聞こえた。カタン、カタン。カタン、カタン、と。
(なんだ。あれ……)
いつものやつだ。それは、わかる。ただ、こんなに、はっきりと悪意のあるソレに出会ったことは初めてだった。
「どうしたんだよ。ユウヤ?」
いつのまにか、となりにキリトが来ていた。ユウヤの顔をのぞきこんでいる。
「オバケでも見たような顔して?」
「………」
笑えないジョークだ。
ユウヤの場合、シャレにならない。
「なんでもない。それよりさ」
ユウヤは話をそらす。
「奥、しらべよう。非常階段が使えるかも」
みんなで、ろうかの奥まで行ってみた。
二階と同様に一番奥に非常口があった。さびてるのか、ドアノブが固い。が、カギはかかってなかった。
「やった! 出れる」
ヒロキが歓声をあげて、ドアを押しあける。が、歓声は、すぐに悲鳴にかわった。
わッと言って、バランスをくずしかけるヒロキの手を、ユウヤはつかんだ。
そこに、階段はなかった。
以前は非常階段がついてたのだろう。今では、くずれた鉄クズが、かろうじて、途中まで、ぶらさがってる。
「ダメだ。これじゃ……」
出口がない。
ここから、逃げだせない。
絶望した瞬間、アスヤが明るい声をだした。
「ケータイは? 助け呼ぼう」
みんな、いっせいにスマホをだした。が、思ったとおり、圏外だ。
ヒロキがスマホをなげだす。
「どうしようもないじゃん」
ヒロキは頼りにならない。今日のことで、よくわかった。日常生活のなかでは強気で行動的だが、緊急事態になると、何もできなくなる。
アスヤは、もとより、おくびょうだ。ちょっと顔がいいから女にはモテるけど。優柔不断で、気が弱い。
(おれとキリトで、なんとかしないと)
ユウヤは意見した。
「こうなったら、ここで、一晩、明かすしかないよ。カギのかかる部屋があれば、そこに、みんなで、こもろう。カギのかかる部屋がないときは、ベッドを動かして、なかからバリケードを作ろう」
キリトが賛同する。
「それしかないね」
病室には一室ずつ、カギがかかるようになっていた。ただし、さびついて動かなくなってるところが多い。
ちゃんと使えるのは、二階の一部屋と、三階にも一部屋。二階の部屋は、最初に寝こんでしまった部屋だ。
「ここで夜が明けるのを待とう」
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