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「うわっ。やべ。雨ふってきた」
「マジ降りだよ。どうする?」
「どうするって、どうしようもないだろ。こんな山んなかじゃ」
山道に迷ってしまった。
高校の友達で久しぶりに集まり、源流探しをしようということになった。テレビで、そんなことをしてたのを、ヒロキが見たらしい。
ヒロキ。ナオト。キリト。マサル。アスヤ。ナオトとアスヤは彼女をつれてきた。
それに、ユウヤの八人だ。
地元の大きな川をさかのぼり、山に入ったあたりまでは楽しかったのだが。
そのあと、アスファルトの道をそれたあたりから、雲行きが怪しくなった。
みるまに空が暗くなる。まだ二時すぎなのに、夜みたいだ。
「どんどん、ひどくなる。どっか雨宿りできるとこないかな。ナツキ、これ、着てろよ」
アスヤは、つきあい始めたばかりの彼女の前なので、いいカッコを見せようと必死だ。自分のパーカーをぬいで、彼女にかぶらせた。
「あそこに大きな木がある。小降りになるまで、あそこにいよう」と、ヒロキが言ったとたんに、カミナリが鳴りだした。
「ほら。急ごう」
ヒロキにつられて、みんなが走りだす。
すると、激しい雨音をかきけすほどの雷鳴が、とどろく。カミナリって、こんな音するのかと、ビックリした。キーンと耳が痛くなるような轟音。振動もスゴイ。
一瞬、視界全体が青白く、そまった。
そして、目をあけたときには、大木は二つに裂けていた。
「うわっ。ヤバ。木の下は、あぶないよ」
マサルが遠慮がちに言う。ひかえめな性格だが、じつはマサルが一番、頭がいい。
「じゃあ、どうするんだよ」
怒ったように、ヒロキが言う。
ヒロキは行動力はあるが、気分屋だ。
ますます、雨は、ひどくなる。稲光もやまない。
一同は困りはてて、立ちつくした。
最初は、ぬれることがイヤだった。でも今では下着まで、ずぶぬれだ。そんなことより、服がぬれて体温が、うばわれていく。ちょっと命の危険を感じる。少なくとも、風邪はひきそう。
そのときだ。ナツキが虚空を指さして、さけんだ。
「あそこ! 建物じゃない?」
こんもりと木のしげった向こうがわ。
断続的なフラッシュのような稲光に照らされ、黒いかたまりが切れ切れに見える。たしかに建物だ。個人の家のようではない。
正直言うと、ユウヤは、それを見た瞬間に、不吉な予感がした。
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