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死者の霊が見えることーー
正確に言えば、死者と、死にきわめて近いところにいる人の顔だけが見える。
子どものころは、このせいで、日常生活にも困った。なにしろ、生きてる人の顔は見えないのだ。
視覚に異常があるわけではない。
風景やテレビ画面、写真などは正常に見える。鏡越しであれば、生きてる人の顔も判別できる。
なぜか、向かいあうと、見えない。
おおまかな表情はわかる。なんというか、顔全体に、もやがかかったように。パーツの配置や口の動き、目の動きは、なんとなくわかる。
それに、見えないのは顔だけだ。体全体は見えるから、服や体格で個人を見分けることはできる。
成長してからは慣れたものの、子どものころには、そのせいで変わり者だと思われたりもした。友人の顔をおぼえられないのだから。
とはいえ、それはまあ、ガマンできる範囲の不便だ。もっとイヤだったのは、死者の霊が見えること。死人の姿というのは、たいてい、不気味だし。
でも、もっと、つらいのは、それでさえない。ほんとに、つらいのは、見えなかったものが見えること……。
ここに近づいたとたんに、友人たちの顔が、はっきり見えるようになった。写真で見なれた顔だから、誰が誰かは、すぐにわかった。
(つまり、おれたち、みんなに死が近づいている。だから、見えるようになった)
ここは危ない。逃げないと。
夜が明けるのを待ちながら、いつのまにか、うたたねしていた。緊張していたが、やはり、疲れていた。
目がさめたのは、悲鳴が聞こえたからだ。
まわりが、やけにバタバタ、にぎやかだなと少し前から感じていた。悲鳴を聞いて、いっぺんに覚醒する。
ほかのメンバーも、とびおきてきた。
「なんだよ?」
「なに、今の?」
ナオトのことがあるから、みんな、不安そうに、まわりを見まわす。
ヒロキ。キリト。アスヤ。ナツキ。それに、ルナ……。
「エリカがいない?」
ユウヤは、あわてて懐中電灯の光をつけた。電池の消耗をふせぐために消していたのだ。
光をあちこちに向ける。たしかに、エリカがいない。それにーー
「ドア、あいてる!」
カギがかかってたはずなのに、ドアはあいていた。そのドアのすきまに赤いものが点々と見える。
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